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筋・腱系障害のリスクとマネージメント

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筋・腱系の障害はスポーツの現場でよく起こります。また、スポーツを行っていない方でも仕事関係や、生活習慣によって筋・腱の障害が起きることもあります。ただ、筋・腱と一言で言っても、わかっているようでわかっていない分野でもあります。そこで、筋・腱障害のリスクとなる要因とリハビリについてお伝えできればと思います。

 

 

筋・腱障害(Tendinopathy)とは

筋・腱障害は英語でTendinopathyと言います(厳密には腱障害ですが)。このTendinopathyはスポーツや日常生活による過負荷や柔軟性低下など、様々な要因で生じます。生理学的にはコラーゲンの線維が損傷・断裂、腱内の細胞が変性している状態*1です。

似たような用語として腱炎を意味するTendinitis, 腱の変性を意味するtendinosisがありますが、結局は腱障害はこれらが複雑に組み合わさっているので、腱障害(tendinopathy)にまとめようというのが近年の流れです。例えば、アキレス腱炎tendinitisも近年はアキレス腱障害tendinopathyの方がよいのではないかと言われています。というのも、今までアキレス腱炎と言われてきた症状は必ずしも炎症が伴うとは限らないからです。むしろ慢性的なtendinopathyは回復に必要な炎症が生じなくなってきていることが問題になることが多いです。

 

 

Tendinopathyのリスクファクター

Stretch-Shorten Cycle(SSC)による負荷

繰り返しの負荷はアキレス腱や膝蓋腱などのTendinopathyのリスクになると言われています。ランニングでは体重の6-8倍の負荷がアキレス腱に加わると言われており、ランニングや跳躍といったダイナミックな運動自体がリスクになってきます。

 

負荷量の変化

上記のSSCの負荷がTendinopathyの要因にもなりますが、そもそも負荷量の変化も要因の1つです。練習量の変化がよくあるパターンで、シーズン開始直後などに疲労などがそこまでないのにも関わらず、Tendinopathyが生じる選手などは練習量、負荷量の変化が要因となっているパターンが多いです。

 

回復期間の短さ

腱も筋と同様、合成(synthesis)と分解(degradation)を繰り返しています。その中でトレーニングを行うとこれも筋と回復に時間が必要です。レーニング後24時間までは腱の合成も高まりますが、分解がより高まるため、合わせると分解が有意になります*2。つまり、24時間以内に新たな負荷を腱に掛けることは腱の強化とTendinopathyを予防するという面ではお勧めできません

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Magnussonら(2010)より引用(改)

 

カニカルの問題

たとえ同じトレーニングをしてもTendinopathyになりやすい人となりにくい人がいるのは解剖学的な問題が関与している可能性があります。たとえば、足関節でいうと背屈の可動域が小さいだけでなく、大きすぎてもアキレス腱のTendinopathyのリスクが高くなり、同じことが膝関節、膝蓋腱にも言えます*3。つまり適切な可動域を獲得することが大切というわけです。

また、解剖学的な問題もしくは腱そのものの肥大によって圧が加わり、腱への負荷と圧迫が重なることによってTendinopathyのリスクが高まります*4

 

Tendinopathyに対する介入の限界

Tendinoapthyでは上述したように腱内の組織が変性している状態です。この変性をどのように改善していけば良いのでしょうか?現在の知見ではこの変性を改善、治癒できる方法は見つかっていません。つまり、手術、ショックウェーブセラピー、注射、運動療法などを行ってもこの変性が改善する可能性は薄いでしょう*5。その理由として上記の介入をしたとしても、変性部分に理モデリングに必要な負荷がかからないからと言われています。それではTendinopathyに対して本当に打つ手がないのでしょうか?そんなことはありません。この変性の改善は見られませんでしたが、24週間のエキセントリックトレーニングを行うことで症状は改善したという報告*6があり、MRI上での組織の変性は症状とあまり関係がないのかもしれません

またリハビリとしてアイソメトリックトレーニングの方が腱に対して負担がかからないという理由で行っている方もいますが、アイソメトリックトレーニングと通常のレジスタンストレーニングを比較してもあまり効果が見られす、収縮様式はあまり重要ではない*7可能性があります。また、急性のTendinopathyに対するアイソメトリックトレーニングも有効である可能性が低い*8と言われています。ただし、アイソメトリックトレーニングは動作づくりなどにはよく用いられていたりするので、状況に応じて使い分ける必要がありそうです。

 

 

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参考文献

*1:Maffulli, N., Longo, U. G., & Denaro, V. (2010). Novel approaches for the management of tendinopathy. The Journal of bone and joint surgery. American volume92(15), 2604–2613. https://doi.org/10.2106/JBJS.I.01744

*2:Magnusson, S. P., Langberg, H., & Kjaer, M. (2010). The pathogenesis of tendinopathy: balancing the response to loading. Nature reviews. Rheumatology, 6(5), 262–268. https://doi.org/10.1038/nrrheum.2010.43

*3:Malliaras, P., & O’Neill, S. (2017). Potential risk factors leading to tendinopathy. Apunts. Medicina de l'Esport, 52(194), 71-77.

*4:Soslowsky, L. J., Thomopoulos, S., Esmail, A., Flanagan, C. L., Iannotti, J. P., Williamson, J. D., 3rd, & Carpenter, J. E. (2002). Rotator cuff tendinosis in an animal model: role of extrinsic and overuse factors. Annals of biomedical engineering, 30(8), 1057–1063. https://doi.org/10.1114/1.1509765

*5:Docking, S. I., & Cook, J. (2019). How do tendons adapt? Going beyond tissue responses to understand positive adaptation and pathology development: A narrative review. Journal of musculoskeletal & neuronal interactions, 19(3), 300–310.

*6:Tsehaie, J., Poot, D., Oei, E., Verhaar, J., & de Vos, R. J. (2017). Value of quantitative MRI parameters in predicting and evaluating clinical outcome in conservatively treated patients with chronic midportion Achilles tendinopathy: A prospective study. Journal of science and medicine in sport, 20(7), 633–637. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2017.01.234

*7:Holden, S., Lyng, K., Graven-Nielsen, T., Riel, H., Olesen, J. L., Larsen, L. H., & Rathleff, M. S. (2020). Isometric exercise and pain in patellar tendinopathy: A randomized crossover trial. Journal of science and medicine in sport, 23(3), 208–214. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2019.09.015

*8:O'Neill, S., Radia, J., Bird, K., Rathleff, M. S., Bandholm, T., Jorgensen, M., & Thorborg, K. (2019). Acute sensory and motor response to 45-s heavy isometric holds for the plantar flexors in patients with Achilles tendinopathy. Knee surgery, sports traumatology, arthroscopy : official journal of the ESSKA, 27(9), 2765–2773. https://doi.org/10.1007/s00167-018-5050-z