陸上選手をはじめ、スポーツ選手に多い足底筋膜炎。病院や整骨院に行っても中々治らないということもよく聞くくらい、メディカルサイドからしても厄介ですよね。その中で足底筋膜炎の治療として鍼灸治療に通われる方もいるのではないでしょうか。そこで今回は実際に足底筋膜炎に対して鍼灸がどのくらい効果があるのか、最新のエビデンスをお伝えしたいと思います。
足底筋膜炎とは?
足底には、足底筋膜と呼ばれる、筋膜が、踵骨から足指の基部まで走行しています。足背の骨は、弓状(アーチ)になって体重を支えているが、アーチを弓の弦のようにピンと張って支えるという役割があります。足底腱膜炎とはその名の通り、踵から足趾にかけて走行している腱組織および筋膜・足底筋膜に炎症が起きることで、ほとんどの場合、足底の部分から踵かけて疼痛が出現します。要因としては、オーバートレーニングなどの過負荷や加齢などによって足底筋膜に炎症を起こすことや、扁平足をはじめとする姿勢不良と言われています。ただし近年、足底筋膜の炎症が必ずしも生じるわけではなく、Plantar Heel Pain(足底踵痛)の方が良いのではと提案している報告*1もあります。
現在における足底筋膜炎の治療
恐らく、典型的な足底筋膜炎の治療といえば足底筋膜自体のモビライゼーションや周囲組織との癒着を剥がすようなアプローチが主流だと思います。しかし、実際に徒手療法などを行なってどのくらいこの足底筋膜の組織が変化したのかというと、わずか1%しか組織の変化は起こりません*2。もちろんこの1%の変化によって人によっては症状が改善する人もいるでしょう。ただ、足底筋膜のモビライゼーションが第1選択肢として行われるのはエビデンスの観点からするとあまり良い選択肢とは言えないかもしれません。
鍼灸治療の効果とエビデンス
それでは鍼灸治療がどれくらい足底筋膜炎に効果があるのか最新の情報を見てみましょう
鍼灸治療のエビデンス
研究デザイン①
足底筋膜炎の患者を対象としたランダムコントロール試験(RCTs)を集めたメタ分析によると、3つの鍼灸と一般的な治療(ストレッチ、トレーニング、アイシングなど)を比較した論文、1つの鍼灸とダミー鍼灸を比較した論文が抽出されました。これらの論文ではヴィジュアルアナログスケール(VAS)と足底筋膜炎の痛み/障害のスケールを用いて疼痛の程度を評価しています。治療期間は4-8週間で、治療前と治療後とで比較しています。この中の1つの論文が治療後6ヶ月まで行い、治療前と比較しております。
結論①
治療前と治療8週間後で比較すると足底の疼痛が有意に減少しました*3。しかし、治療後6ヶ月になると、一般の治療との有意な差はみられませんでした。このことから、短期間における疼痛の軽減はできるものの、長期的なスパンで見るとそこまで強いエビデンスは今のところみられないということになります。
研究デザイン②
この研究では、足底筋膜炎による慢性のかかとの痛みに対するドライニードリングの影響を調べました。
20人の患者がランダムに2つ(コントロール群と治療群)のグループに分けられ、患者の足底痛の重症度(ビジュアルアナログスケール(VAS)変法を使用)、足関節背屈ROM[ROMDF]および足関節底屈ROM[ROMPE]および足部機能指数(SEM5およびMDC7質問表を使用)を治療前、介入後4週間、治療終了後4週間で測定しました。
結論②
4週間の介入後、治療群の平均VASスコアはコントロール群よりも有意に低かった(p <0.001)ですが、ROMDFとROMPEの比較では、4週間の介入後、両群に有意な変化は見られませんでした(p=0.7 vs p=0.65)。4週間の介入後、治療群のMDC7およびSEM5スコアの平均は、コントロール群よりも有意に低かった(p <0.001)。よって、足関節の可動域には影響はみられませんでしたが、踵の痛みの重症度の改善がみられました*4。
まとめ
上記の論文をまとめると、足底筋膜において、鍼灸治療によって疼痛が改善されるという報告はありますが、長期的な期間での効果は不明瞭であると考えられます。
推奨される治療方法
2017年に足底筋膜炎に対する診断と治療についてまとめられたシステマティックレビューが発表されました*5。その中でも下記に推奨される治療の一覧があります。
その中でもトレーナー・鍼灸師がアプローチできる方法は超音波、マッサージ、徒手療法、マニピュレーション、ストレッチ、テーピングなどが挙げられています。 ただし、この論文においても治療に関してはまだ追加研究が必要と述べております。また、上記にあるように、足底筋膜の組織自体はこれらのアプローチによって大きく変化することは考えにくいです。そのため、現段階ではエビデンスレベルの強い治療方法は確立されていないと言えます。
個人的な意見になりますが、足底筋膜の解剖学的な変化は少ないということ、鍼灸の効果は従来の治療方法と比べて短期間でしか見られなかったことを踏まえると、状況によっては対処療法のような感じで鍼灸や徒手療法を行うのはありですが、時間と状況に余裕があるのであれば、走り方といった動作から改善していく必要があるのかもしれません。ただし、足底筋膜炎の要因も複雑で人によって大きく違うので、鍼灸などの治療で疼痛を改善してみて様子をみるというのも場合によってはあるのではないかとも思っています。
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参考文献
*1:Riel, H., Cotchett, M., Delahunt, E., Rathleff, M. S., Vicenzino, B., Weir, A., & Landorf, K. B. (2017). Is 'plantar heel pain' a more appropriate term than 'plantar fasciitis'? Time to move on. British journal of sports medicine, 51(22), 1576–1577. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097519
*2:Chaudhry, H., Schleip, R., Ji, Z., Bukiet, B., Maney, M., & Findley, T. (2008). Three-dimensional mathematical model for deformation of human fasciae in manual therapy. The Journal of the American Osteopathic Association, 108(8), 379–390. https://doi.org/10.7556/jaoa.2008.108.8.379
*3:Thiagarajah A. G. (2017). How effective is acupuncture for reducing pain due to plantar fasciitis?. Singapore medical journal, 58(2), 92–97. https://doi.org/10.11622/smedj.2016143
*4:Eftekharsadat, B., Babaei-Ghazani, A., & Zeinolabedinzadeh, V. (2016). Dry needling in patients with chronic heel pain due to plantar fasciitis: A single-blinded randomized clinical trial. Medical journal of the Islamic Republic of Iran, 30, 401.
*5:Petraglia, F., Ramazzina, I., & Costantino, C. (2017). Plantar fasciitis in athletes: diagnostic and treatment strategies. A systematic review. Muscles, ligaments and tendons journal, 7(1), 107–118. https://doi.org/10.11138/mltj/2017.7.1.107