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鉄分の観点から見るスポーツ貧血の原因と治療〜予防まで

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スポーツ貧血は主にマラソン選手といった長距離選手によくみられますよね。女性は特に月経などの影響もありよく起こりやすくなってしまいます。一般的に貧血は鉄分不足と言われますが本当なのでしょうか?鉄分の働きという観点からどこまで貧血に影響するのかみてみましょう。

 

 

鉄分とは

鉄分とは必須ミネラルの1つで、主に食事やサプリメントから摂取する必要があります。主に動物性食物からはヘム鉄、植物性食物からは非ヘム鉄が摂取できます*1。摂取した鉄分のうち、67%はヘモグロビン内に存在し、27%は脾臓、肝臓、骨髄などに貯蔵され、3.5%はミオグロビン内に存在します。ヘモグロビンは赤血球の材料になるもので赤血球はご存知の通り酸素の運搬に重要な役割を果たします。

 

 

鉄分摂取不足による貧血(鉄欠乏性貧血)

貧血とは赤血球もしくはヘモグロビンの数が低下している状態のことをいいます。赤血球の産生能力の低下など様々な要因が考えられます*2。鉄分の観点でいうと、鉄分の摂取量が不足するとヘモグロビンが不足してしまいます(鉄欠乏性貧血)。ヘモグロビンは筋などの組織に酸素を運ぶ重要な役割をになっているため、ヘモグロビン不足は貧血の要因になります。症状としては心拍数の増加、疲労しやすくなる、食欲不足、筋痙攣が起きやすくなる、頭痛、めまいなどがあります。この鉄分不足の要因はそもそもの摂取量不足もしくは吸収できていない場合、汗や出血によって過剰な排出の3通りあります。女性の場合は月経によって排出してしまうため、貧血が起こりやすいということになります。

 

 

アスリートに起こる貧血

スポーツ貧血(mechanical hemolytic anemia)とは

スポーツ貧血とはメカニカルなストレス(主に運動によるもの)による溶血性貧血のことで、赤血球の分解・破壊を引き起こします*3。溶血性貧血は赤血球が分解・破壊されて起こる貧血のことです。運動量の多いスポーツ選手に起こるスポーツ貧血のカニズムとしては走るという動作において足部への衝撃にて赤血球が破壊され、赤血球内にあるヘモグロビンが尿中に排出されることによって生じます。これに加え、スポーツ選手は運動による発汗によっても鉄分を排出するので、通常の鉄欠乏性貧血も起こりやすくなります。つまり、スポーツ選手の鉄分不足が起こる要因として、運動そのものによる溶血からの尿による排出(スポーツ貧血)、発汗による排出、胃腸での出血などが挙げられます*4

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アスリートにおける鉄分不足の影響

これらによる鉄分不足はアスリートのパフォーマンスの低下にも影響し*5、特に持久系アスリートに大きな影響を与えます*6。具体的にいうと、赤血球の機能が低下しているため、筋への酸素運搬機能が低下してしまいます*7

 

 

スポーツ貧血の予防と対策

貧血の予防と対策ですが、十分量の赤血球とヘモグロビンが体内にあることが重要です。さらにスポーツ選手の運動量は多いので、通常の鉄欠乏性貧血に加えスポーツ貧血の両面で対策をする必要があります。そのため摂取面での鉄分の摂取と、排出防止面でのトレーニングの工夫が重要になってきます。

 

鉄分の摂取目安と方法 

厚生労働省によると、1日あたり成人男性で7.5mg、成人女性で10.5mgが摂取目安になります*8。前述したように、動物性食物からヘム鉄、植物性植物から非ヘム鉄が摂取できます。動物性植物では具体的にレバー、カツオ、マグロなどに多く含まれ、植物性植物では大豆、小松菜、ほうれん草に多く含まれています。もちろんこの目安料は一般の方を対象にしているもので、スポーツ選手はより多くの鉄分を摂取する必要があります。女性アスリートであれば1日あたり18g以上摂取する必要があります*9。鉄分の摂取によるパフォーマンスの影響ですが、貧血ほどではなく、鉄分不足のアスリートに対する研究では、鉄分のアプリメントの摂取によって最大酸素摂取量が有意に増加したと報告されており*10貧血の有無に関わらず鉄分が不足している選手が摂取することに意味がありそうです。また、ヘモグロビンの産生のため、鉄分と同時にタンパク質、ビタミンB12葉酸の摂取が推奨されています*11

 

レーニングの工夫

走動作による足への衝撃で赤血球が破壊される(溶血)とすると、地面が柔らかい方が良いのではないかと考える方が多いですが、地面の硬さよりも練習強度の方が溶血に影響します*12。場所よりも練習強度を見直した方が良さそうです。また、激しいトレーニングによってタンパク質の一種であるヘプシジン(hepcidin)が増加し*13、このヘプシジンが腸での鉄分の吸収を阻害します*14十分な鉄分を摂取していても吸収されなければ意味がありません。それでは実際にどの程度の強度であれば鉄分不足を招かないのでしょうか?目安として最大心拍数の60%の強度で1時間程度であればヘプシジンに影響は出てきません*15。そのため、状況にもよりますが、貧血が疑われる場合はこのくらいまで強度を落としていく必要がありそうです。

 

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参考文献

*1:Van Dokkum, W. (2013). Mineralen en spoorelementen. In Informatorium Voeding en Diëtetiek-Voedingsleer (pp. 394-446). Bohn Stafleu van Loghum, Houten.

*2:Capriotti, T. M., & Frizzell, J. P. (2015). Pathophysiology: Introductory concepts and clinical perspectives. FA Davis Company.

*3:Telford, R. D., Sly, G. J., Hahn, A. G., Cunningham, R. B., Bryant, C., & Smith, J. A. (2003). Footstrike is the major cause of hemolysis during running. Journal of applied physiology (Bethesda, Md. : 1985), 94(1), 38–42. https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00631.2001

*4:Peeling, P., Dawson, B., Goodman, C., Landers, G., & Trinder, D. (2008). Athletic induced iron deficiency: new insights into the role of inflammation, cytokines and hormones. European journal of applied physiology, 103(4), 381–391. https://doi.org/10.1007/s00421-008-0726-6

*5:Wilkinson, J. G., Martin, D. T., Adams, A. A., & Liebman, M. (2002). Iron status in cyclists during high-intensity interval training and recovery. International journal of sports medicine, 23(8), 544–548. https://doi.org/10.1055/s-2002-35528

*6:Beard, J., & Tobin, B. (2000). Iron status and exercise. The American journal of clinical nutrition, 72(2 Suppl), 594S–7S. https://doi.org/10.1093/ajcn/72.2.594S

*7:Lukaski, H. C., Hall, C. B., & Siders, W. A. (1991). Altered metabolic response of iron-deficient women during graded, maximal exercise. European journal of applied physiology and occupational physiology, 63(2), 140–145. https://doi.org/10.1007/BF00235184

*8:厚生労働省.日本人の食事摂取基準 2020年版, (2)微量ミネラル, ①鉄(Fe)

*9:Hinton P. S. (2014). Iron and the endurance athlete. Applied physiology, nutrition, and metabolism = Physiologie appliquee, nutrition et metabolisme, 39(9), 1012–1018. https://doi.org/10.1139/apnm-2014-0147

*10:Zhu, Y. I., & Haas, J. D. (1998). Altered metabolic response of iron-depleted nonanemic women during a 15-km time trial. Journal of applied physiology (Bethesda, Md. : 1985), 84(5), 1768–1775. https://doi.org/10.1152/jappl.1998.84.5.1768

*11:Pate R. R. (1983). Sports Anemia: A Review of the Current Research Literature. The Physician and sportsmedicine, 11(2), 115–131. https://doi.org/10.1080/00913847.1983.11708460

*12:Peeling, P., Dawson, B., Goodman, C., Landers, G., Wiegerinck, E. T., Swinkels, D. W., & Trinder, D. (2009). Training surface and intensity: inflammation, hemolysis, and hepcidin expression. Medicine and science in sports and exercise, 41(5), 1138–1145. https://doi.org/10.1249/MSS.0b013e318192ce58

*13:Auersperger, I., Knap, B., Jerin, A., Blagus, R., Lainscak, M., Skitek, M., & Skof, B. (2012). The effects of 8 weeks of endurance running on hepcidin concentrations, inflammatory parameters, and iron status in female runners. International journal of sport nutrition and exercise metabolism, 22(1), 55–63. https://doi.org/10.1123/ijsnem.22.1.55

*14:Kong, W. N., Gao, G., & Chang, Y. Z. (2014). Hepcidin and sports anemia. Cell & bioscience, 4, 19. https://doi.org/10.1186/2045-3701-4-19

*15:Troadec, M. B., Lainé, F., Daniel, V., Rochcongar, P., Ropert, M., Cabillic, F., Perrin, M., Morcet, J., Loréal, O., Olbina, G., Westerman, M., Nemeth, E., Ganz, T., & Brissot, P. (2009). Daily regulation of serum and urinary hepcidin is not influenced by submaximal cycling exercise in humans with normal iron metabolism. European journal of applied physiology, 106(3), 435–443. https://doi.org/10.1007/s00421-009-1031-8