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オランダのスポーツ教育 The Athletic Skills Model②

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前の記事でお伝えしたように、多様な運動パターンの発達は競技特有のパフォーマンスにも深く関わってきます。ASMではこの多様な運動パターンを構築するためにBasic Movement Skills(以下:BMS)を用いるわけです。

 

BMSとは、基本的な動きのことですが、幅広い運動スキルが含まれ、複雑な運動を行うためにも必要なものになります。

BMSで大事なのは、かしこまったルール上でのスポーツなどではなく、遊び感覚で楽しんで行うスポーツによって身につけられるということです。

精神的にも楽で、極端にいえばなんでもありの状態で動き回るわけですから。

研究面でも、恐れずにチャレンジすることで、trial and errorの機会を得て、失敗から学ぶことによって動きを応用させることができるようになると言われています*1

 

ASMではBMSを以下の10個の運動としています。

・Balancing and falling(バランスをとる動きと落ちる事)

・Romping and fighting(跳ね回る事と戦う事)

・Moving and locomotion(動き回る事)

・Jumping and landing(跳ぶ事と着地する事)

・Rolling, tumbling and turning(転がる事、回転する事と方向転換)

・Throwing, catching and hitting and aiming(投げる事、捕る事、狙って打つ事)

・Kicking, shooting and aiming(蹴る事、狙ってシュートを打つ事)

・Climbing and scrambling(登る事、よじ登る事)

・Swinging(揺さぶられる事)

・Music in motion(音楽の中で動く事)

  

これらの動きは決して分離して考えるものではなく、パフォーマンスにおける機能的な面での相互作用があります。

 それでは1つずつ説明していきます。

 

ASMの基本的な10個の動き

Balancing and falling(バランスをとる動きと落ちる事)

遊びやスポーツにおいて、このスキルの割合が最も高くなります。この能力は地面の上、もしくは空中で安定もしくは不安定性を調節する動きで、他の動作に移る時に必ず必要になってくる動きです。

 

Romping and fighting(跳ね回る事と戦う事)

戦うと表現しましたが、これには押したり引いたりすることも含まれ、フィジカルコンタクトなどに必要な能力になります。競り合った時に重心が上下したり、転んでも、しっかりと次の技や技術に合わせて自分の重心を運んでいく動きです。

 

Moving and locomotion(動き回る事)

これは一言で言うと移動する動きのことで、歩きやジャンプ、自転車など方法は様々です。この動きには加速や減速も含まれます。

 

Jumping and landing(跳ぶ事と着地する事)

この動きは跳んだ時に、距離、高さ、着地のために姿勢を調節する動きです。神経学的な調節が必要になってきます。

 

Rolling, tumbling and turning(転がる事、回転する事と方向転換)

この動きは前額面、矢状面、水平面において回転や方向転換を調節する動きです。

 

Throwing, catching and hitting and aiming(投げる事、捕る事、狙って打つ事)

主に上肢を使って行われる動きで、文字通り、投げたり、ボールに合わせて衝撃を吸収して捕球するという動きです。

 

Kicking, shooting and aiming(蹴る事、狙ってシュートを打つ事)

主に下肢を使って行われる動きで、文字通り、蹴ったりボールに合わせてシュートを打つ動きです。この動きはフェイントなど、競技特有の専門の動きに繋がってきます。

 

Climbing and scrambling(登る事、よじ登る事)

歩きや走りと違って、この動きは上肢が固定されて体が動いていきます。また、ロープや壁など物を介して行われる動きです。

 

Swinging(揺らす事)

この動きは座ったり立ったりした状態でブランコや橋などの上で揺らす動きです。

 

Music in motion(音楽の中で動く事)

これは様々なリズムに合わせて動くことです。リズム通りに動くことは水泳から球技まで全ての競技に要求されます。

 

 

専門化の時期

 少し話を戻しますが、ASMが言いたいのは、決して対象のスポーツはやるなと言っているわけではありません。あくまで、特に幼少期はその競技特有の練習よりもBMSを考慮すべきと言うことです。

しかし、競技によってはBMSとその競技特有の練習の割合が変わってきます。幼少期において、競技特有の練習の経験がかなり重要とされている、新体操、体操競技、水泳、フィギュアスケート、飛び込みでは、競技特有の練習の割合が他競技に比べて多くやるべきと言われています。勿論、これらの競技でもBMSは重要になってきます。理由としては、その競技に必要とされる柔軟性や水や高所などへの恐怖心への対応が幼少期の方が圧倒的に容易に会得できるからです。これらの練習は10歳までに行うべきと言われています*2

 また、運動学習にも適齢期というものがあり、7歳までが最も運動学習をするには適していると言われています。外見だけでなく、運動能力も年齢に合わせて発達していくので、動きからも運動能力における成長の早さを判断することができます。

 

BMSの区分

さて、では本格的にBMSの話に入ってきます。BMSの10個の動きに関しては前述した通りです。これらのBMSはCA(白枠)とCOM(黒枠)によって深く関係しています。

 

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そしてこのBMSは大きく分けて考えると、4つのカテゴリーに分けられます。

・Sport-specific basic movement skills スポーツ特有のBMS

・Sport-adaptive basic movement skills スポーツに応用するBMS

・Sport-related basic movement skills スポーツに関係したBMS

・Sport-supporting basic movement skills スポーツを支えるBMS

 

この4つのスキルはどれか1つを突出させるというより、バランスよく発達しているかをコーチ、トレーナー、両親など周りの人がしっかりと確認していく必要があります。

 

 

Sport-specific basic movement skills スポーツ特有のBMS

このスキルは対象の競技に特化した基本的な動きのスキルになり、環境と道具に深く関わってきます。環境でいうと、スケートの選手であれば、氷の上での動くこと(氷の感覚をもとに)、水泳選手であれば水中での動くことがこれにあたります。また、道具でいうと、テニスでいうラケットを扱うこと、野球でいうグローブを扱うことがこれにあたります。これらのスキルはその対象のスポーツの練習や試合によって身につけることができます

 

 

Sport-adaptive basic movement skills スポーツに応用するBMS

上記のスキルはその競技における環境や道具にどれだけ特化し、感覚を自分のものにできるかというものに対し、このスキルはその感覚を、環境や道具の変化に対しどれだけ順応できるかというスキルになります。例えば、サッカーでいう雨の日の濡れた芝グラウンドでしっかり順応できるかどうか、体操競技でいう、試合会場による鉄棒などの道具の素材の違いにしっかりと対応できるかどうかといったスキルになります。これもその競技内での変化への対応なので、対象のスポーツを行うことで身につけることができます。ただし、少し工夫が必要です。というのも、意識しないとこれらの環境の変化は作りにくいものもあるからです(これらの変化は意図して生じているわけではないので)。恵まれ過ぎた環境で行う選手は特に注意が必要です。

 

 

このスキルは対象のスポーツと間接的に関係し、異なる環境や道具での基本動作を行うスキルになります。例えば、アメフトでいうと、アメフトのボールを用いて投げるのはアメフトに特化した「投げる」という動作ですが、ソフトボールを投げるのは同じ「投げる」ですが、アメフトのスキルとは異なります。ですが、このソフトボールによって培われた「投げる」というスキルはアメフトにもいきてきます。このように詳細なスキルの違いはあれど、異なる環境や道具における、基本動作を行うというスキルです。このスキルはドナースポーツ(前の記事参照)によって身につけることができます

 

 

Sport-supporting basic movement skills スポーツを支えるBMS

このスキルは対象のスポーツとほとんど関係ない動きを行うスキルになります。例えば、バドミントンの選手にとってのボールを蹴る動きだったり、サッカー選手にとってのボクシングなどになります。このように一見ほとんど関係ない動きですが、「スポーツをする運動神経」として深く関わってきます。というのも、バドミントンはシャトルを見てそこに照準を合わせてラケットを当てに行くスキル、つまり目と上半身を協調して動かす能力が必要とされます。しかし、自分の体を運ぶのは下半身であり、その目と下半身を協調させて自分を運んで行くスキルも必要になってきます。そこで、ボールを蹴る動きは目と下半身を協調させるという意味で必要な動きになるのです。このスキルはマルチスポーツ(マルチスポーツ)によって身につけることができます

 

ここまでで、BMSの細かい区分についてお伝えしました。

次の記事では、BMSの実践について書いていきたいと思います。 

 

以下が参考文献になります。

 

*1:Sara D. L. Santos1, Daniel Memmert, Jaime Sampaio, Nuno Leite (2016); The Spawns of Creative Behavior in Team Sports: A Creativity Developmental Framework

*2:Joris Hoeboera, Sanne De Vriesa, Michiel Krijger-Hombergena, René Wormhoudtc, Annelies Drentd, Kay Krabbend, Geert Savelsberghd (2016); Validity of an Athletic Skills Track among 6- to 12-year-old children