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オランダのスポーツ教育 The Athletic Skills Model①

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今回はオランダのスポーツ教育(タレント発掘)についてお伝えしていきます。

オランダという国は人口が約1700万人しかおらず、日本のように競争主義の方法では他の国には勝てません。1人1人にしっかりと教育していくのがオランダのスタイルです。

 

そこで、近年オランダは新しいスポーツ教育におけるプログラムを作成しました。

その名もThe Athletic Skills Model(以下:ASM)です。

この記事ではこのプログラムができた背景をお伝えしていきます。

 

近年の子供達の運動環境

近年、運動する環境が目まぐるしく変わり、子供の運動量は30年と比べて減少しているという現状があります。また、この環境によって運動する機会が減ることで、肥満になる子供も増えているとWHOは提唱しています*1。子供の運動発達の専門家である、Brian Grasso氏は、子供の時期は運動を行う引き出しを増やすことが大切だと言っています。しかし近年では、子供にやりたいことをやらせるという親が増え、数学が好きな子は数学ばかり、サッカーが好きな子はサッカーばかりやらせるようになり、専門的トレーニング・教育の開始が若年化してきています*2

 

早期の専門的トレーニン

もし、1つのスポーツしかやらないで育つと、運動能力が限られた方面でしか発達せず、そのほかの一般的な運動スキルは制限されてしまうと言われております*3

しかし、これによる良い面もあります。早期に1つのスポーツを行うことによって、そのスポーツのパフォーマンスが早期に高いレベルにも達することも可能になります*4

 

全般的に運動するメリット

様々な運動をすることで、機能的動作(体の使い方)が良くなることが示唆されています。これをphysical intelligence(身体的知能)と呼んでいます。このphysical intelligenceが低いとその競技特有のスキルの上達はできても、それを応用したりする動きが不十分になる可能性が高いと考えられています。

さらに、ASMのキーポイントとして、9-12歳までの時期に身体的にも、精神的にも様々な事を経験させることとしています。また、18歳からその競技特有の練習に集中しても問題はないとしています。

適切な時期に適切な能力(physical intelligence)を身に付けることで、最終的に早期に専門的トレーニングを行った者よりも高いパフォーマンスを身に付けることができると考えられています。

 

・The Athletic Skills Modelにおける成長段階

ASMは運動能力を6つの成長段階に分類しています。

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※英語のathleteは日本語のアスリートと違って必ずしもプロレベルの競技者だとか、そのスポーツで食べていく人を指しているわけではありません。

 

ここまでで、子供に対して行うべきは多角的な発達を促すことがわかったと思います。

 

学習の移行

動きにおいて、スポーツ間の類似している部分は異なる部分より大きいことが良くあります。そのため、運動能力の移行は同じスポーツ間と同じくらい異なるスポーツ間でも行われます*5。故に、異なるスポーツや運動・活動が対象のスポーツのパフォーマンスに良い影響を与えるのか、もしくは悪い影響を与えるのかを判断するために、スポーツ間の類似している部分と異なる部分がそれぞれなんなのかを理解する必要があります。そこで、ASMではマルチスポーツとドナースポーツの2種類のスポーツが存在します。マルチスポーツというのは、遊びに焦点を当て、2種目以上の種目を楽しむ事をモットーに行うことで、ドナースポーツは対象のスポーツのパフォーマンスの向上に焦点を当てて選択された種目で、ドナースポーツは対象の競技の要素になるように選択されることです。

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Movement transfer 動きの移行

運動能力は動きやスポーツ、またはその技術間で移行が行われます。この動きの移行はバイオメカニクスや解剖学的視点から見るフォームの中で類似している点を探します。例えば、フリスビーの投げる動作とテニスのバックハンド、バスケットボールのディフェンスとサッカーのディフェンス(1対1)は動作が似ています。ASMはスポーツ間での動きの移行、特にBMSにおける移行に深く関係していきます。同じBMSはドナースポーツより学習されることもあります。また、異なるスポーツの実施によって試合状況を解決する能力(対応能力)を身に付けることができます。というのも、同じ競技でも状況によって様々な動き、フォームが求められます。そこで、色々なスポーツの経験によって様々な動きを学習していることによってそれに対して対応できるからです(動きの移行によって)。

 

Perceptual transfer 知覚の移行

この移行は戦術的な意識や、戦術パターンの認識、空間認知、意思決定をも含みます。これらは主に視覚情報によって行われます。例えば、ホッケーの相手陣に切り込んでゴールに近づいていく戦術はサッカーに似ています。そのためこのような競技間で、1つの競技経験が他の競技において知覚の移行が行われます。また、チームスポーツでは時間や空間の認識に視覚情報は欠かせません。なので、色々なポジションをおこなわせる事が重要になってきます。なぜなら、サッカーでいうと、ストライカーのポジションばかりやっていると、いざディフェンダーによってディフェンスをされた時にディフェンダーでの視点や空間の認識がないため、突破口の引き出しが少ないということに陥るからです。この知覚の移行によってプレイヤーは環境の情報を即座に認識し、パフォーマンスに関わる意思決定(プレーの判断)をして行きます。研究においても、オーストラリアンフットボールの選手をプレーの判断が良い人と悪い人に分け、プレーの判断が良い人は悪い人に比べ、子供の時に様々なスポーツ、特に”果敢に攻めるスポーツ(バスケットボール、ホッケーなど)“をやっていたという報告があります*6。2014年の研究でもサッカー選手にとってこの上記のスポーツはプレーの判断に良い影響を与えるとしています*7。バレーボールでは効果が薄いようなので、種目は選んでいく必要があります。

 

 

Conceptual transfer 概念の移行

この移行はスポーツのルールや、環境、戦略によって行われます。例えば、ハンドボールとテニスは試合会場によって地面が異なり、体操競技飛び込み競技は会場が静まったところから、自分のタイミングで動き始めます。このように競技特性というより、環境に焦点を当てて比較して行きます。

 

 

Physiological or Physical conditioning transfer 生理学・身体的状態の移行

これは特に競技特有の練習やトレーニングを行うことで、移行が行われます。ASMではconditions of movement(以下:COM)として、アジリティ、安定性、柔軟性、パワー、持久力、その他coordinative abilities(以下:CA)コーディネーション能力を定めています。この中で特にスタビリティやパワーといったフィジカル要素の部分は一般的に他競技に良い影響を与えます。例えば、自転車で身につけた持久力のスピードスケートへの移行などです。また、子供にとっては季節ごとのスポーツを行ったほうが1年中という観点からフィジカル面を維持できるので、対象のスポーツがオフシーズンの時は逆にその季節の競技を行うことが推奨されます。

 

Competence transfer 適正・能力の移行

この移行はスポーツによって培った考え方や、精神のことを指します。知識、考え方、スキルといったものは他のスポーツや文化などによって学ぶこともできます。ASMが言うこれらの精神やマインドというのは、自分のメンタルコントロールや、相手へのリスペクト、コミュニケーションといったものです。以前に獲得したこれらの精神やマインドは次の新しいスポーツにも移行できると言われています*8

 

 

さて、様々な競技を経験することのメリットがわかりました。それでは、これらのメリットをどのようにして用いていくのでしょうか?

ASMはスポーツや動き、体育やリハビリなどに関わる膨大なプログラムです。

 

ASMには大きく3つの概念があります。 

ASMの3つの概念

BMS: Basic Movement Skills

・CA: Coordinative abilities

・COM: Conditions Of Movement

これらの3つにアプローチすることがASMの教育になります。

 

それでは次の記事ではBMSについてお伝えして行きます。 

 

以下が参考文献になります。

*1:Mercedes de Onis, Monika Blössner, Elaine Borghi (2010); Global prevalence and trends of overweight and obesity among preschool children

*2:Brad Ferguson, Paula J. Stern (2014); A case of early sports specialization in an adolescent athlete

*3:Joe Baker(2003); Early Specialization in Youth Sport: A requirement for adult expertise?

*4:Laura Capranica, Mindy L. Millard-Stafford(2011); Youth Sport Specialization: How to Manage Competition and Training?

*5:J Côté, J Baker, B Abernethy (2007); Practice and play in the development of sport expertise

*6:Berry, J; Abernethy, B; Côté, J (2008); The contribution of structured activity and deliberate play to the development of expert perceptual and decision-making skill

*7:Joe Causer, Paul R. Ford (2014); Decisions, decisions, decisions”: transfer and specificity of decision-making skill between sports

*8: Darren J. Burgess, Geraldine A. Naughton (2010);  Talent Development in Adolescent Team Sports: A Review