現在、人間にとって健康な栄養素の1つとして食物繊維が注目されています。
食物繊維とは胃の中で胃酸による加水分解や、小腸での吸収はされ図、大腸内のフローラによって発酵されます。
その中でも今回はイヌリンについてお伝えしていきたいと思います。
イヌリンとは食物繊維の1つで、約3000種類以上の植物に含まれています。
それではイヌリンがどんなはたらきをするのかをまとめていきます。
食物繊維としてのはたらき
イヌリンは植物中に存在する貯蔵多糖で、β-(2-1)-d-フルクトシル結合によって結合されたフルクトース部分を有し、直鎖状に分子が結合しているために小腸での消化に耐性があります。
しかし、大腸で発酵されることができます。
というのも、イヌリンの約90%は結腸まで到達し*1、大腸に存在する細菌によって消化されるからです。
大腸にある最近によって短鎖脂肪酸に変換され、微生物のエサとなります。
また、この難消化性の働きによってカロリーも低くなっています(1.5kcal/g)。
食物繊維の持つ難消化性の成分は腸内の置いて浸透作用を及ぼし、水分を腸内に留めておく作用があります。この作用によって便秘が改善されていきます。イヌリンによって腸の動きが活発になることで便の量が13%増加したという報告もあります。
一方、少量の化合物は浸透圧に大きく影響し、過剰な水分を結腸に輸送してしまいます。これがソルビトールやラクトロースがイヌリンよりも下剤作用が大きい理由です。
また、発酵することによってガスが産生されます。しかしイヌリンは化合物よりも発酵されるまでの時間が長いので、ガスの産生も少量で済みます。研究では1日約10gまでのイヌリンとオリゴ糖の摂取であれば、ガスの産生による腹部の膨張感などはないと報告されています*2。また、長期的な摂取においても1日5gまでであれば健康に被害はないことが報告されています。
カルシウム、マグネシウム、鉄分の吸収を高める
骨量の維持のために、十分なカルシウムの摂取と、高い吸収率が必要です。
カルシウムの1日の推奨食事摂取量は男性で800 mg /日、女性で800-1000 mg /日、マグネシウムは男性では350〜420 mg /日、女性では280〜320 mg /日です。
ミネラルは主に小腸の近位部で吸収され、ビタミンDが細胞基質のカルシウム結合タンパクと小腸上皮に多いカルシウム結合タンパク質であるカルビンジンD9Kを産生することによって、その機能を助けるはたらきをします。
さらにカルシウムの蓄積は腸の粘膜間にある接合部を通して受動的に行われます。この過程は不飽和性、用量依存性、ビタミンD非依存性であり、両方の腸にわたって行われます*3。
しかし、発酵された物質はミネラルの主要な吸収部位を大腸に移行することで、カルシウム濃度を一定に保つことができます。
現在、多くの論文でイヌリンやオリゴ糖はミネラルの吸収を促すと示唆されています。
特にイヌリンとオリゴ糖を同時に摂取したほうがより効果が高いと言われています(約18%カルシウムの吸収率アップ)。
イヌリンが結腸で発酵し、短鎖脂肪酸や有機物を産生することで腸内のpHが低下させることが1つの要因だと考えられています。腸内のpHが低下するとカルシウムが活性化され、吸収されやすくなります(bioavailabilityが向上し、受動拡散されやすくなる)。
また、ビタミンD受容体の機能を変え、カルビンジンD9Kを増加させることでイヌリンやオリゴ糖はカルシウム輸送を活性化させることができます。
ミネラルとして、もしくは他の成分と一緒に食事中に存在するカルシウムは消化される前にイオン化される必要があります。
ただし、これらの役割はイヌリンやオリゴ糖が直接影響しているというよりも、発酵することで産生される物質による影響が大きいと言われています。
また、イヌリンが直接影響するのは青年期の人や女性の方が多く、男性に対しては効果はあまり実証されていません。
近年の研究では、鉄分が不足している場合にのみ、イヌリンが鉄分の吸収を促していることがわかってきました。
貧血の豚を対象にした実験では、血中のHBの値が約4%改善したと報告されています。
まだ人間を対象とした研究は少ないので、今後の知見を待ちましょう。
プレバイオティクスとしてのはたらき
プレバイオティクスというのは、難消化性で、腸内細菌の餌になり、腸内フローラのバランスを整え、健康を増進させる成分のことを指します。そのため、カルシウムや骨内のミネラル含有量を増加させ、腸内で産生するガスを減らす作用があります。
イヌリンはこれらのプレバイオティクスとしてのはたらきだけでなく、脂質と糖分の吸収を約12%抑えるはたらきがあります。
短鎖イヌリンは腸の近位部にて消化され、長鎖イヌリンは遠位部にて消化されるので、両者を混合して摂取することでプレバイオティクスとしての効果が向上することが示唆されています。さらにその割合は1:1が最も効果が高いと言われています。
脂質や糖質の代用
イヌリンは脂質のなめらかとした食感や糖質の甘さを代用することができます。
脂質のなめらかとした食感には主に長鎖イヌリンが用いられます。
例えば、低脂肪のヨーグルトに長鎖イヌリンを混ぜて食べることで、食感としては通常のヨーグルトに近いものになります。
イヌリンを用いた食事を作る場合、ヨーグルトやカスタードや、お肉のソースに用いられることが多いです。
一方、糖質への代用は短鎖イヌリンが用いられます。
甘味の濃度としてはスクロース(人工甘味料)の約35%と言われています。
ただ、そこまで強い甘味ではないので、あくまでダイエット食品や甘さやカロリー控えめの食品に対して用いられます。
参考文献
*1:Cherbut, C. (2002). Inulin and oligofructose in the dietary fibre concept. British Journal of Nutrition, 87(S2), S159-S162.
*2:Bonnema, A. L., Kolberg, L. W., Thomas, W., & Slavin, J. L. (2010). Gastrointestinal tolerance of chicory inulin products. Journal of the American Dietetic Association, 110(6), 865-868.
*3:Weaver, C. M., & Liebman, M. (2002). Biomarkers of bone health appropriate for evaluating functional foods designed to reduce risk of osteoporosis. British Journal of Nutrition, 88(S2), S225-S232.